●曼珠沙華
曼珠沙華はその見目麗しさも好みですが、
冬になると青々と葉を繁らせるその植生に好感を持ってます。
幼い私は目線が低くて、土の匂いが穏やかで、
散歩の足を止めては花や虫に心を奪われていました。
霜がかった暗い地面に広がる深緑の細い葉っぱを不思議がる私に
「曼珠沙華は賢いから、他の植物がいないときに葉を広げて光を吸収するのよ」
とお母さんは教えてくれました。
「でも、春になると他のお花の邪魔になるから葉は消えてなくなるのよ」
以来、曼珠沙華はお花の中でも別格です。
毒があるという噂もどきどきしました。
守るものがあって、毒を身に付けているんだと感じました。
だって、あの薄い糸のような花びら、炎のような姿。
群生するため、遠くから見ると畑が火事のようでした。
桜より、曼珠沙華の満開の下のほうが蠱惑的です。
曼珠沙華をみるとやっちゃんを思い出します。やすこちゃん。
登下校が一緒で、ぼんやりしていた私にアイドルやウォークマンなど
いまどきの話を教えてくれた天然パーマの同級生。
道で猫が轢かれていたときは一緒に運んで埋葬し、
近所で飼ってるハスキーを覗きに塀をよじ登った仲です。
秋、私が満開の曼珠沙華に浮かれて、一本折って差し出したら
厳しく手を払いのけられたことがあります。
毒があるんだよ!ってやっちゃんは小さく叫んでいました。
恥ずかしく、だけど納得できない思いで私は花を頭に載せてみました。
王冠みたいでしょって道化てもやっちゃんは振り向いてくれなかったな。
曼珠沙華は離れて歩く私の頭の上で煌々と燃えておりました。
私が生まれた日、病院からおくるみに包まれて帰る日、
家の周りのあぜ道には延々と曼珠沙華が咲き誇っていたそうです。
曼珠沙華には天上の花という意味があり、それはおめでたい事が起こる兆しに
赤い花が天から降るという仏教の経典に由来するとのこと。
今、そこら中に天から赤い花が降ってきているのなら
明日からおめでたいことが続きますね。グッドラック。
あいにく今年は眺めることができそうにありません。
来年、一緒にいこうね。天から降る赤い花の里。